「チタン素材に鏡面加工をしたい」
「鏡面加工と鏡面研磨は何が違うの?」
このように思っている人に向けて、チタンに行う鏡面加工について解説します。鏡面加工を行う主なチタン素材や、2種類の加工方法などを紹介します。また、同じ鏡面仕上げである鏡面研磨も解説するので、鏡面仕上げについて知りたい人はぜひご覧ください。
鏡面加工とは鏡面仕上げの加工方法

鏡面加工とは読んで字のごとく、プレートや丸材を鏡のように光沢がある状態に変化させる加工方法です。鏡面に仕上げるためには、まず素材表面を平坦にするために凹凸を無くす必要があります。精密な加工技術が必要な加工方法で、仕上げ精度を調整して光の反射具合を変えることも可能です。
鏡面仕上げをすれば、見た目の美しさを強調できます。また、細かい加工ができるため、精密機器の部品の寸法精度を高めるためにも有効な方法です。
似た加工方法に鏡面研磨があります。両方とも素材を鏡面に仕上げる方法ですが、仕上げの方法や、使用する設備環境が異なるのを覚えておきましょう。鏡面加工は切削または研削による加工で、鏡面研磨とは砥石による研磨で加工する方法です。
素材の平面が広く刃物が当てやすい場合や、高い精度で寸法を調整したいときには鏡面加工が適しています。逆に部品の形状が入り組んでおり、刃物が当たりづらいケースでは鏡面研磨が適しています。
鏡面加工を行う主なチタン製品
鏡面加工を行っているチタン製品は、以下のように広い分野で採用されています。
- 航空機
- 医療
- 工場プラント
- 建築
- 自動車
- 民生品
- 健康分野
- 海洋土木
医療機器や航空機、自動車では精密な寸法精度が求められるため、鏡面加工が向いています。
民生品の一例は、スマートフォンのボディや自転車のフレーム、ドライバーヘッドなどです。昨今は印鑑でも、高級感を出すためにチタン素材の鏡面仕上げが行われています。
チタン素材への加工は難しい
チタンは「難切削」と呼ばれており、以下の理由により加工自体が難しいとされています。
- 強度が高い
- 熱伝導率が低く熱がこもりやすい
- 削りカスが工具に焼きつきやすい
チタンは、鋼やステンレスよりも強度が高いです。そのため、加工において熱が発生しやすく、加工熱の融着による変形が起きやすいのが加工を難しくしています。
チタンは熱伝導率が小さいので、加工時に熱が逃げずに工具に熱が集中します。摩擦熱により工具が軟化し、研磨性能が低下してしまうのです。酷くなると工具と化学反応を起こしてしまい溶着が発生し、工具を破損させてしまう可能性もあります。
また、チタンは化学活性化が起きやすく、刃物に切粉や削りカスがつきやすいです。切粉や削りカスが工具に付着するとさらに化学反応を起こし、工具が摩耗しやすくなります。
鏡面加工を行う2種類の方法
鏡面加工は鏡面研磨と異なり、切削や研削によって表面の凸凹を無くし鏡面仕上げを行う方法です。加工には下記2つの方法があります。
- 刃物を使用する超精密切削加工
- 研削砥石を使用する超精密研削加工
両方とも、チタンの表面部分を鏡のように変化させることに変わりありません。ただし、プロセスは異なります。以下でそれぞれの方法を詳しく紹介します。
刃物を使用する超精密切削加工
超精密切削加工とは、対象物から余分な部分を専用の工具で切削し、表面の形状を仕上げていく加工方法です。フライス盤や旋盤、マシニングセンタなどの機器を使用します。
一般的な精密加工との違いは加工精度です。精密加工はマイクロスケール(1,000分の1ミリメートル)単位の精度で加工を行います。超精密加工とは、ナノスケール(1,000分の1マイクロメートル)単位の超精密な精度加工です。
1ナノメートルとはDNAのらせんの幅に近いサイズです。超精密切削加工が、高度で繊細な加工技術なのかがわかるでしょう。
切削加工ではダイヤモンド材の工具を使用し、一定の回転数や速度条件の設備のプログラムに組んで加工します。形状が複雑なものでも加工できますが、素材が小さいと固定方法や加工速度で条件出しが難しくなるケースがあるでしょう。
研削砥石を使用する超精密研削加工
超精密研削加工では、研削盤を使用します。研削砥石を高速回転させて、対象の部材の表面を少しづつ削り取る加工方法であり、摩擦による研磨とは異なります。切削加工との違いは、刃物によって削り取るのではなく、高速で回転する砥石で刃物を研ぐように加工する点です。
精度は超精密切削加工と同じく、ナノメートル単位で加工します。少しづつ削り取っていく加工法なので、切削加工よりも高い精度と品質を保ちやすいのが特徴です。
しかし、切削加工よりも削り取る量が少ない研削加工では、どうしても加工時間が長くなります。工数も増え、時間当たりの加工量も多くないので、効率面では切削加工が勝ります。
鏡面加工のメリット
鏡面加工のメリットとして挙げられるのは下記3つです。
- 素材の表面を美しく仕上げられる
- 滑らかさの向上
- コスト削減
鏡面加工をすると鏡のように表面がピカピカになるため、見た目の美しさがアップします。滑らかさ(平滑性)が向上すると、加工前に比べ摩擦が軽減されます。外側から見えないパイプ内側やコンベア上などに鏡面加工を施すと、内部を通過する液体や粉状の物体が流れやすくなるのがもう一つのメリットです。
また、鏡面加工は研磨を行わずに鏡面仕上げを行えるので、時間と費用を削減できます。鏡面研磨は切削・研削加工を行った後に行う仕上げ加工なので、研磨無しで行える鏡面加工はコストダウンに繋がります。
鏡面研磨の加工プロセス
鏡面仕上げの一つである鏡面研磨は鏡面加工と比べて、使う設備や道具が異なります。
下記は鏡面研磨の加工プロセス4つです。
- 素材の脱脂と洗浄
- サンディング
- バフ研磨
- 仕上げ
周りの環境や加工形状によっては、鏡面研磨を選択する可能性がありますので詳しく解説します。
素材の脱脂と洗浄
前工程として切削・研削加工を行った部品の脱脂と洗浄を行います。部品に残った汚れとは、削りカスや切粉、油残留物(切削油)やグリースです。汚れを残すと次工程に影響するので、脱脂剤を使用して念入りに拭き取ります。
次に十分な量のきれいな水の中でチタン部分をすすぎ、洗浄剤に数分間浸します。洗浄剤は、中性石鹸やガラス洗浄剤、アンモニアなどです。その後はチタン部分をお湯ですすぎ、清潔なウエスで拭き取ってから乾かします。
注意点として、洗浄の際に塩素や漂白剤は使用できません。チタン素材の特性により見た目の品質に影響を及ぼす場合があるためです。洗浄は重要工程のため、徹底的な洗浄を行うために超音波洗浄機を使用するケースもあります。
サンディング
サンディングとは、サンドペーパーや研磨剤を使用してチタン部分の表面を滑らかにする、精密研削に相当する作業です。酸化物層を除去して薄いチタンコーティング層を形成し、金属磨き剤の密着性も高める工程です。
チタン部分に潤滑剤をつけて、適したサンドペーパーを使用しドリルに接続されたフックパッドに置きます。最初は荒いグレードのペーパーから順に使い、仕上がりに応じてラインに沿って滑らかなグレードのペーパーに変えて行きます。
サンドペーパーにも潤滑剤をつけて、チタン部分端から反対側の端まで水平方向に動かすのが重要です。潤滑剤を塗ったサンドペーパーを表面全体に移動させるまで続ける必要があります。ペーパ―のグレードを変えるたびに、均一な圧力で繰り返します。
バフ研磨
素材はバフ研磨を行うことにより、光沢のある表面に変化します。最初にアルコールベースのクレンザーでチタン部分表面を拭き、きれいに整えるのがポイントです。次にバフホイールと金属磨き剤を使ってチタン部分を磨き上げます。注意点として、磨き工程の際には、発生する熱を押さえるために断続的に水をかけるようにします。
仕上げ
バフ研磨後に仕上げを行います。目に見える跡やわずかに欠けた斑点などが残っている場合は、ペイントポリッシュで隠します。汚れがないきれいなウエスにペイントポリッシュをつけて、跡が濃くなるまで表面を擦るのが重要です。
次に表面を水でスプレーして乾燥させます。その後、シーラントを別のウエスにつけて再度表面を擦り、あらためて乾燥させます。最後は、またきれいなウエスを使用し、余分な液体を除去して完成です。
素材表面を溶解させ鏡面仕上げを行う電解研磨
鏡面仕上げには、鏡面加工や鏡面研磨の他にも電解研磨があります。電解研磨とは、電気分解によって素材表面を溶かして、研磨に似た効果を得る方法です。
素材を電解液が入った電解槽に入れて浸漬させることにより素材表面を溶かします。切削の際に発生したバリや、研磨で残った細かいキズなどを除去するのです。
ただし、電極の位置や距離、素材表面の形状によっては仕上がりにバラつきが出る可能性があります。また、素材にスキマがあると電解液が入り込んで、時間の経過とともに液だれを起こすケースもあるのも難点です。
電解研磨は部品の形状が複雑で鏡面加工では刃物が当たらない場合や、部品が小さくバフホイールも上手く当てられない場合に適しています。
チタン素材の鏡面仕上げを理解して業者に依頼しよう
チタンの鏡面加工は、見た目の美しさを出したり、微細な寸法調整が必要な部品の作成に使われます。しかし、チタンの加工には高度な技術が必要です。満足のいく仕上がりにするためには、高い技術力を持った業者に依頼しましょう。