チタンは軽くて丈夫な金属として、日用品から航空宇宙産業まで幅広いシーンで活用されています。チタンの加工方法に切削加工がありますが、チタンは加工が難しい金属としても知られています。
この記事では、チタンの特徴や加工が難しい理由を解説。
チタンの加工に適した工具や工具材質も解説するので、チタンの切削加工を検討している人はご覧ください。
チタン素材の特徴

チタンは軽くて高強度で、優れた特徴を多くもっています。軽さは同じ体積重量だと胴の半分で、ステンレスの5~6割程度です。金属の中で軽いとされているアルミニウム合金との比較でも1.6倍程度となります。
チタン合金の比強度は、600℃の温度域までであればステンレスやアルミニウム合金の3倍程度です。
耐食性にも優れており、海水に近い環境でも腐食に強くなっています。チタンは酸素との親和性が高い性質で、酵素と接触してその表面に酸化膜を形成します。酸化膜は堅固に安定した不動態の膜です。結果的に、酸素を吸収しづらくなり変化に強くなるのです。
また、熱伝導率が約7.5w/m・Kと低く、熱による移動が起きづらいのも特徴の一つです。同じく熱伝導率が低いステンレスと比べても約半分です。
チタン素材の加工が難しい理由4つ
チタンは「難切削」と呼ばれており、加工が難しい素材として知られています。チタンの加工が難しい主な理由は下記4つです。
- 変形やひび割れが起きやすい
- 熱の影響で工具が摩耗する
- 発火する危険性がある
- 工具のチッピングが起きやすい
それぞれ詳しく解説します。
変形やひび割れが起きやすい
チタンは加工の際に変形やひび割れが起きやすい素材です。理由としてヤング率(縦弾性係数)が低いため加工に時間がかかることが挙げられます。ヤング率とは、素材に力が加わった際に、素材がたわむ(変形する)力と元に戻ろうとする力を表します。
ヤング率が低いと、素材が曲がっても戻る力が弱い(変形しやすい)ことを意味します。チタンのヤング率は比較的低いため、加工中に変形や振動が起きやすいです。変形や振動は、加工の精度に影響を与えます。
そのため、チタンを切削する際には、速度を調節しながら作業を行う必要があります。
熱の影響で工具が摩耗する
チタンを加工するとき、熱の影響で工具が摩耗しやすいのも加工を難しくしている理由です。これは、チタンの熱伝導率が小さいためです。
「熱伝導率が小さい」とは「熱しにくく冷めにくい」ことを意味します。素材の熱伝導率が小さいと切削加工の際に熱が逃げられず、工具に熱が集中して摩擦が増え、摩耗しやすくなります。そのため、チタンの加工の際には、熱をこもらせないための冷却対策が重要です。
発火する危険性がある
チタンの切粉は、発火する危険性があります。高温のチタンは空気中にある水分子にある酸素と反応するため、空気中に水素が発生します。そのため、火を消そうとして水をかけると、水素爆発を起こす可能性があるため危険です。
消火には乾いた砂や粉末消火剤を使わなければなりません。チタンの切粉が発生したら、こまめに処分する必要があります。
工具のチッピングが起きやすい
チタンを切削加工する際には、工具のチッピングが起きやすいです。チッピングとは工具の刃先が欠ける現象です。
理由としては、チタンの引張強度が高い点が挙げられます。引張強度とは、引き伸ばす力にどれだけ耐えられるかを表す数値です。純チタンの状態では引張強度はそれほど高くはありませんが、チタン合金になると強度は上がります。
引張強度が高いと、切削の工具に大きな負担がかかり、工具の刃先が欠けるチッピングが起きやすくなるのです。
工作機械の注意点
チタンの切削加工を行う際には、適した工作機械を使用する必要があります。チタンの切削加工で重要なのは、機械が振動を起こさないことです。チタンの切削加工中には強い振動が発生します。
振動を押さえるためには、他にも機械の性能や使い方に関して以下の点に注意するのが大切です。
- 十分に馬力がある
- ベース及びフレームがしっかり設置されている
- 回転数の幅が広く取れる
- 正確に作動する
- 工具の突き出し部分は短くする
- こまめな工具の交換
また、道路や線路など振動の伝わりやすい場所での作業は避ける必要があります。
チタン素材を加工する際のポイント
チタンを切削加工する際では、チタンの特性を理解して作業をするのが重要です。
以下のポイントに注意します。
- 切削温度を保つために速度を調節する
- 切削油を適切に使用する
- 適切な材質の工具を使用する
- 削りカスや切粉を適切に除去する
上記の中で特に重要なのは、切削速度を押さえて切削温度を保つことです。温度が高温になり熱がこもると摩擦により工具が摩耗します。そのためには、後述する切削油を使うのが大切です。
チタン素材を加工する際の使用工具3つ
チタンを切削加工する際には、主に以下3種類の工具を使用します。
- ドリル
- タップ
- エンドミル
どの工具を使っても良いわけでなく、工具の特性を理解してそのときどきに適したものを使う必要があります。以下で詳しく見ていきましょう。
ドリル
ドリルは丸い穴あけ加工をするときに使用します。主にねじ穴を切る前の下穴加工や、配管やレールを通すための穴あけ加工で採用されます。ドリルによる加工は、切削と同じく材料を削ります。
ドリルはオイルホール付きのものが適しています。オイルホイールとはドリルに切削油が通るための油穴があるものです。切削油が潤滑しやすくなるので、熱くなりがちなチタン加工における熱対策は有用です。
硬度が高いチタンの加工には超硬ドリルも使えますが、超硬は硬いがゆえに強い衝撃に弱く、深穴加工には向いていません。
タップ
タップとは、ねじ穴を切るための工具です。ねじ穴加工でもドリルと同じく熱がこもりやすく、チタンへのねじ加工は他の素材よりも難しいとされています。ドリルによる下穴加工の際に条件を間違えると、穴が縮小してタップが抜けなくなるケースがあるためです。
タップは用途によって種類を使い分けます。手作業で行うならハンドタップ、止まり穴ならスパイラルタップ、通り穴ならポイントタップなどを使用します。
エンドミル
エンドミルとは、外周刃と底刃によって素材を切削する工具で、平面的に切削する際に使います。一般的なハイスのエンドミルでは、チタン素材の高速切削が難しいです。そのため、耐摩耗性を高くした粉末ハイスに、同じく耐摩耗性や耐熱性を高くしたTiNコーティングしたものを使うのが一般的です。
また、硬度が高いチタンを切削する場合には、より硬い超硬エンドミルが向いています。刃物のチッピングを減らすために、超硬でも超微粒子超硬合金を使用する場合もあります。
チタン素材を加工する際の工具材質4選
切削する工具材質にはさまざまな種類がありますが、チタン素材を切削する場合には適した材質を選ぶ必要があります。下記はチタン加工に使える工具材質4選です。
- ハイス
- 超硬
- CBN
- ダイヤモンド
主に使用される材質はハイスと超硬ですが、ワークの表面状態や切削量、職人の熟練度によっても選択は変わります。
ハイス
ハイス鋼とは「ハイスピード鋼」の略であり、高速度工具鋼と言われています。切削用の工具や金型に用いられることが多く、鋼にクロムやタングステンなどの金属成分が添加されています。
ハイスはコストが安いため広く使われている材質ですが、超硬と比較した場合、耐熱温度が低いため重切削には向きません。しかし、工作機械のスペックによりパワーが足りない、切削条件に適合しないなど超硬が使えない場合もあります。
その際は、加工効率は落ちるもののハイスを使用するケースもあるのです。チタンの加工に使用するのは一般的なハイスではなく、粉末ハイスが適しています。
超硬
超硬(超硬合金)とは、タングステンやコバルトなどを合わせた金属で、加工工具やプレス金型などに使われています。
超硬製の工具はチタンの加工に適している材質です。
超硬には下記3種類があります。
- チタンカーバイト(TiC)やタンタルカーバイト(TaC)を多く含むP種
- 僅かながらTiCとTaCを含んでいるM種
- 主体がタングステンカーバイト(WC)であるK種
このうち、チタンの加工に適しているのはK種です。TiCを含んでいると、チタン素材と化学反応を起こして工具が摩耗しやすくなるためです。
CBN
CBN(キュービックボロンナイトライド)とは、ホウ素と窒素からできている化合物です。CBN製の工具を使用した高速切削は可能ですが、問題があります。
じん性(外力によって破壊されにくい性質)により、加工中に断続切削を起こして刃物がチッピングしてしまう可能性です。
そのため、使用には注意が必要となります。
ダイヤモンド
ダイヤモンドは自然界でもっとも硬い物質です。ダイヤモンド製の工具はチタンとの反応性が低く、熱伝導率や硬度も高いため、チタンの加工に適しています。
しかし、ダイヤモンドは高硬度である一方、結晶面に沿ってはがれるように生じる破壊現象(へき開性)が起きやすいです。
また、価格が高額なのでコストメリットを考慮すると、超硬を選択されるケースが多くなっています。
切削油の重要性
切削油の重要性として、工具寿命の向上によるコスト削減や、加工精度を上げ効率アップを図れます。切削温度を保ち、工具の摩耗を抑えるためには切削油が必要です。
切削油には、「水溶性切削油剤」と「不水溶性切削油剤」があります。水溶性切削油剤は水で希釈して使用するため、引火の危険性は少ないですが、バクテリアによる劣化の可能性があります。
不水溶性切削油剤は潤滑性や防錆性、浸透性に優れているのが長所です。一方で、希釈せずに使用するので引火する危険性があります。そのため、予防措置を行ってから使用しなければなりません。
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