チタンは、軽量でありながら高い強度を持ち、耐食性や生体適合性にも優れる金属です。近年は、金属積層造形を用いてチタン部品を造形する取り組みも広がっており、複雑な内部構造や軽量化を意識した形状、複数部品を一体化した構造など、従来の切削加工だけでは製作しにくい部品に対応しやすい点が特徴です。
一方で、「金属積層造形ではどのようなチタンが使われるのか」「チタンを使うメリットや注意点は何か」「どのような業界で活用されているのか」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、金属積層造形で用いられるチタンの種類やメリット・デメリット、代表的な活用例について解説します。チタンを用いた試作評価や製品開発を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
チタンとは
チタンとは、軽量でありながら高い強度を持ち、耐食性にも優れる金属です。鉄やステンレスなどと比べても、重量に対する強度のバランスに優れていることから、航空宇宙、医療機器など、性能や信頼性が重視される分野で用いられています。
チタンの大きな特徴は、表面に酸化皮膜を形成しやすい点です。この酸化皮膜によって腐食が進みにくく、海水や多くの薬液環境でも使用しやすい材料とされています。また、生体適合性に優れることから、人工関節や歯科インプラントなど、人体に接触・埋入する医療機器の材料としても活用されています。
一方で、チタンは加工が難しい金属としても知られています。チタンは熱伝導率が低いため、切削で発生した熱が切りくず・被削材側へ逃げず、工具刃先に集中します。その結果、工具摩耗が早まりやすいため、加工条件の管理に配慮が必要です。複雑形状の部品を削り出しで製作する場合には、素材の大半が切子となるような材料ロスが生じてしまう事、加工前素材の購入費が高額となる事、難切削材となるため、重切削をすると加工費が高くなる事が重なり、部品コストが高くなる傾向にあります。
金属積層造形で用いられるチタンの種類
金属積層造形で使われるチタンには、純チタンとチタン合金があります。
| 種類 | 主な特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 純チタン Grade 2 | 耐食性や延性、生体適合性に優れる。チタン合金と比べると強度は低い。 | 化学設備部品、耐食性が必要な部品、医療機器・歯科関連部品 |
| Ti-6Al-4V(64チタン/Grade 5) | 軽量で高強度、耐食性に優れる代表的なチタン合金。 | 航空宇宙部品、モータースポーツ部品、産業機械部品、医療機器 |
| Ti-6Al-4V ELI(Grade 23) | Ti-6Al-4Vより酸素や窒素などの含有量を低く抑え、靭性や生体適合性を重視した材種。 | 医療用インプラント、歯科インプラント、高い信頼性が求められる部品 |
ここでは、金属積層造形で用いられるチタンとして、純チタン Grade 2・Ti-6Al-4V・Ti-6Al-4V ELIの3種類について解説します。
純チタン Grade 2
純チタン Grade 2は、工業用純チタンの代表的な材種です。チタン合金と比べると強度は低い傾向にありますが、耐食性や延性(成形性)、生体適合性に優れています。
特に、腐食しやすい環境で使用する部品や、人体への適合性が求められる部品で検討される材料です。医療機器分野では生体適合性を生かし、インプラントなどの材料として用いられることがあります。
ただし、強度が重要になる構造部品では、純チタンよりもチタン合金が選ばれる場合があります。
Ti-6Al-4V(64チタン)
Ti-6Al-4Vは、チタンにアルミニウムとバナジウムを加えたチタン合金です。「64チタン」と呼ばれることもあり、金属3Dプリントで広く用いられる代表的なチタン合金の一つです。
高い比強度と耐食性を備えており、軽量化と強度の両立が必要な部品に適しています。航空宇宙分野の構造部品やエンジン周辺部品、医療機器、モータースポーツ関連の部品など、さまざまな領域で利用されています。
材料が持つ高い比強度とあわせて、積層造形が得意とする複雑形状や肉抜き構造を取り入れることで、必要な強度を確保する設計を検討しやすい点が特徴です。
Ti-6Al-4V ELI
Ti-6Al-4V ELIは、Ti-6Al-4Vよりも酸素や窒素などの侵入型元素を低く抑えた材料です。ELIは「Extra Low Interstitials」の略称で、靭性や破壊に対する信頼性が求められる用途で検討されます。
医療用インプラントや、高い品質管理が求められる部品などで用いられることがあります。特に、人体に埋め込む部品では、造形後の材料特性だけでなく、部品としての表面性状、清浄度の他、要求に応じた適切な造形後の熱処理、品質評価などの後工程も重要となります。
金属積層造形でチタンを用いるメリット
チタンを積層造形するメリットは、高い比強度と耐食性という材料そのものの性能と、積層造形ならではの設計自由度を組み合わせることで、他造形材質と比較して特にメリットを得やすいことにあります。
ここでは、積層造形でチタンを用いる主なメリットとして、以下の3点について解説します。
- 比強度が高いため部品の軽量化を実現しやすい
- 複雑形状や部品一体化にコスト面でも対応しやすい
- 生体適応性が高いため医療用途で求められる特性を達成しやすい
比強度が高いため部品の軽量化を実現しやすい
金属積層造形では、従来の加工方法に起因する形状制約が少なく複雑形状が作りやすいという特徴があります。それと併せてチタンの高い比強度により、薄肉化やラティス構造を設計に取り入れやすく、軽さと強度のバランスがとりやすくなる傾向があります。
例えば、航空宇宙分野では、部品の軽量化が燃費、航続距離、運動性能、積載量などに影響します。従来の加工方法では製作が難しかった複雑な肉抜き形状でも、積層造形を活用すれば設計の選択肢を広げることが可能です。
複雑形状や部品一体化にコスト面でも対応しやすい
チタンを金属積層造形で造形する大きなメリットの一つが、形状の自由度です。
そのメリットを活かし複雑形状にしつつ部品を一体化できれば、組み立て工程や接合箇所を減らせる可能性があり、品質安定や軽量化にもつながるでしょう。コスト視点でみると、大部分を切子にしてしまうような複雑形状の場合、高額な加工費の影響で部品単価が上がる傾向がありますが、造形の場合は逆に体積が少ない方がコストが下がる傾向にあります。
切削加工用に大きなインゴットを買うと購入費が高く納期もかかりますが、造形品の材料費は必要な体積分のみとなるので、工程全体をみてコストメリットを取りやすい傾向にあります。
生体適応性が高いため医療用途で求められる特性を達成しやすい
チタンは生体適合性に優れるため、医療機器・歯科分野との相性が良い材料です。金属積層造形技術を使えば、患者ごとのCTデータや口腔内データをもとに、個別形状に合わせたインプラントや補綴物を製作しやすくなります。
また、骨との結合を考慮した多孔質構造や表面形状を設計できる点も、積層造形の強みです。
金属積層造形でチタンを用いるデメリット・注意点
チタンは高性能な材料ですが、金属積層造形で扱う際には注意すべき点もあります。
まず、チタンは一般的な鉄鋼材料やアルミニウム合金と比べて材料価格だけをみると高額となる傾向があります。ただ、部品製作に占める材料費の割合は少なく、先にも述べた通り工程全体をみるとコストメリットは得やすい傾向となります。
また、造形に使用するチタン粉末は微細な粉じんとして扱うため、火災や粉じん爆発のリスクを考慮しなければなりません。適切な設備、回収システム、保護具、保管方法を整えた環境で取り扱うことが重要です。
造形後の後処理も欠かせません。金属積層造形では、残留応力の除去を目的とした熱処理や、内部欠陥の低減を目的としたHIPが必要になる場合があります。さらに、表面粗さや寸法精度は、従来の切削加工だけで作った部品と同じ水準にならない場合があります。高い精度や滑らかな表面が必要な箇所は、造形後の機械加工を前提に設計することが現実的です。造形部品の最終用途に応じて、どの工程を組み合わせるかの検討が必要です。
チタン製品の活用例
チタンの金属積層造形は、軽量性、高強度、耐食性、生体適合性、複雑形状への対応力を生かし、幅広い分野で活用されています。ここでは代表的な用途として、以下の3つの分野での活用例を紹介します。
- 医療機器・歯科
- 航空宇宙業界
- 精密機器・電子部品
医療機器・歯科
医療機器分野では、人工関節、骨接合材、頭蓋骨プレートなど、患者ごとの形状に合わせる必要がある部品で活用されています。患者のCTデータをもとに設計し、個々の患者に適した形状が製作できる点は、積層造形ならではのメリットです。
歯科分野では、歯科インプラントや補綴関連部品などにチタンが用いられます。小型かつ複雑な形状の部品を比較的効率よく製作できるため、個別性の高い製品との相性が良いといえるでしょう。
航空宇宙業界
航空宇宙業界では、軽量化と高い強度が求められる部品にチタン合金が使われます。積層造形のメリットを活かし、部品点数を減らした一体構造や、軽量化を意識したトポロジー最適化形状が適用されている事例が多くみられます。
航空宇宙用途では高い品質保証が必要なため、造形条件の管理、熱処理、非破壊検査、材料試験などを含めた製造プロセスの構築が重要です。
精密機器・電子部品
精密機器や電子機器の分野では、複雑な内部流路を持つ部品、軽量な治具、少量生産の特殊部品などに金属積層造形が活用されます。チタンは、熱伝導性が最優先となる冷却部品には必ずしも適しませんが、耐食性や強度、軽量性が求められる部品では選択肢の一つです。
併せて従来工法では複数部品に分ける必要があった構造を一体化できれば、組み立て工数の削減や、設計変更への迅速な対応につながる場合があります。
まとめ
チタンは、軽量でありながら高い強度を持ち、耐食性や生体適合性にも優れる材料です。金属積層造形を用いることで、従来工法では製作が難しかった複雑形状、内部流路、ラティス構造、一体化部品などにも対応しやすくなります。
一方で、チタン造形では粉末管理、造形条件の最適化、熱処理、HIP、機械加工、検査などが必要になる場合があります。造形だけで完結させるのではなく、最終的に求める品質や性能から逆算して製造工程を設計することが重要です。
金属技研株式会社では、電子ビームやファイバーレーザーを用いた金属積層造形に加え、HIP、熱処理、接合、機械加工、検査・解析まで対応しています。チタンを用いた金属積層造形の試作や製品開発、造形後の品質づくりを検討している場合は、材料選定から後工程まで含めて金属技研株式会社へご相談ください。