製造業において、納期の短縮やコスト削減、品質向上は常に追求されるテーマです。これらの課題を解決するアプローチの一つとして注目されているのが「ニアネットシェイプ」という考え方です。
この記事では、ニアネットシェイプの基本的な意味から、期待できるメリット、そして実現するための代表的な加工方法までをわかりやすく解説します。
ニアネットシェイプとは
ニアネットシェイプ(Near Net Shape)とは、製品を最終形状に極めて近い状態で成形する加工技術や考え方のことです。言葉を分解すると、「ニア(Near=近い)」「ネット(Net=最終の)」「シェイプ(Shape=形状)」という意味になります。
従来の製造工程では、素材を大まかな形状に成形した後、切削加工や研磨加工などの仕上げ工程を何度も経て最終製品に仕上げるのが一般的でした。しかし、ニアネットシェイプの手法を用いると、最初の成形段階でほぼ最終形状に近い状態まで作り上げることができるため、後工程の仕上げ加工を大幅に削減できます。
なお、関連する用語として「ネットシェイプ(Net Shape)」があります。ネットシェイプは、仕上げ加工をほとんど必要とせず、成形工程だけで最終形状を実現する加工を指します。一方のニアネットシェイプは、軽微な仕上げ加工で最終形状にできる半製品の状態を意味しており、求められる寸法精度の程度によって使い分けられています。
ニアネットシェイプの考え方は、自動車部品や航空機部品、医療機器部品など、さまざまな分野で広く取り入れられています。
ニアネットシェイプのメリット
ニアネットシェイプを導入することで、製造工程全体にわたって多くのメリットが期待できます。ここでは、代表的なメリットとして、以下の5点を紹介します。
- リードタイムの短縮
- コストの削減
- 精度・品質の安定化
- 耐久性の向上
- 材料歩留まりの向上
リードタイムの短縮
ニアネットシェイプの最大のメリットの一つが、製造リードタイムの短縮です。従来の製造方法では、素材から最終形状に至るまでに多くの工程が必要でしたが、ニアネットシェイプでは成形段階で最終形状に近い状態まで仕上げるため、後工程の切削加工や研磨加工の工数を大幅に減らすことができます。
たとえば、冷間鍛造によるニアネットシェイプでは、仕上げ工程を削減できるケースがあります。工程数の削減は、製品の納期短縮に直結するため、市場への迅速な供給が求められる製造業において大きな強みとなるでしょう。
コストの削減
仕上げ工程の削減は、加工時間の短縮だけでなく、加工コストの低減にもつながります。切削加工に使用する工具や設備の稼働時間が減少するため、加工費全体を抑えることが可能です。
精度・品質の安定化
ニアネットシェイプによる加工では、金型を用いた成形が主体となるため、製品品質の安定化が期待できます。切削加工の場合、工具の摩耗によって寸法精度にばらつきが生じやすく、工具の定期的な交換や加工条件のきめ細かな管理が必要です。
一方、冷間鍛造などのニアネットシェイプ工法では、金型形状を高い精度で転写できるため、適切なメンテナンスを行うことで大量生産においても安定した品質を維持することができます。加工条件による品質のばらつきを抑えられることは、品質管理の面でも大きな利点です。
耐久性の向上
ニアネットシェイプでは、複数のパーツを一体成形で製造できる場合があります。一体成形することで、溶接や接合による弱点がなくなり、製品全体の耐久性が向上します。
また、鍛造系のニアネットシェイプ工法では、金属内部のファイバーフロー(繊維状組織)が途切れることなく形成されるため、製品の強度や耐久性がさらに高まります。複数パーツの組み立て工程も不要になるため、工数削減との相乗効果が得られる点もメリットです。
材料歩留まりの向上
ニアネットシェイプでは、最終形状に近い状態で素材を成形するため、後工程で除去する材料が最小限に抑えられます。つまり、投入した素材に対して製品として活用される割合(材料歩留まり)の大幅な向上が可能です。
材料歩留まりが高いということは、廃棄物の削減にもつながります。昨今、企業の環境意識が高まる中で、ニアネットシェイプは環境負荷の低減という観点からも注目されています。
ニアネットシェイプを実現する加工方法
ニアネットシェイプを実現するためには、さまざまな加工方法が活用されています。ここでは、代表的な方法を紹介します。
1つ目は、精密鍛造(冷間鍛造)です。常温で金属に高い圧力をかけて成形する方法で、寸法精度の高い製品を得ることができます。塑性流動を利用して素材を金型内で成形するため、ファイバーフローが途切れず、高強度な製品を製造できることが特徴です。
2つ目は、ロストワックス鋳造です。ワックス(蝋)で製品の原型を作り、それを鋳型として金属を流し込む精密鋳造法です。複雑な形状の製品を高い精度で成形できるため、ニアネットシェイプの代表的な工法として広く知られています。ステンレスやチタンなどの難削材にも対応できることが強みです。
3つ目は、金属粉末成形(MIM・焼結)です。金属粉末成形には、粉末プレス焼結(PM)とMIM(金属射出成形)があります。粉末プレス焼結は金型でプレス成形後に焼結する方法、MIMは金属粉末とバインダーを混練して射出成形後に脱脂・焼結する方法です。小型・複雑形状の大量生産に適しています。
4つ目は、3Dプリンター(アディティブマニュファクチャリング=AM)です。これは積層造形技術の総称であり、代表的な方式の一つに金属粉末をレーザーや電子ビームで溶融・積層するPBF(Powder Bed Fusion)方式があります。金属AMには、PBFのほかにもDED(指向性エネルギー堆積)やバインダージェッティングなど複数の方式があり、それぞれ特性が異なります。従来の加工方法では製造が困難だった複雑な内部構造を持つ製品も実現できます。
このほかにも、ダイカスト鋳造や精密プレス加工など、ニアネットシェイプを実現できる工法は数多く存在します。いずれの方法を選択する場合でも、製品の形状や材質、要求される寸法精度、生産数量、コストなどを総合的に考慮して最適な工法を選定することが重要です。場合によっては、複数の工法を組み合わせることで、より高いニアネットシェイプ効果を得られるケースもあります。
まとめ
ニアネットシェイプとは、製品を最終形状に近い状態で成形することで、後工程の加工を最小限に抑える加工技術です。リードタイムの短縮やコスト削減、品質の安定化、耐久性の向上、材料歩留まりの向上など、多くのメリットをもたらします。
精密鍛造やロストワックス鋳造、金属粉末成形、金属3Dプリンターなど、実現するための加工方法は多岐にわたります。製品の特性や要求事項に応じて最適な工法を選択することで、製造工程全体の効率化を図ることができるでしょう。
金属技研では、ニアネットシェイプを含むさまざまな加工技術のご提案を行っております。製造工程の効率化やコスト削減についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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