金属加工にはさまざまな方法がありますが、その中でも広く利用されている加工法の一つが「塑性加工(そせいかこう)」です。自動車部品や建築資材、日用品に至るまで、塑性加工は私たちの身の回りにある多くの製品に活用されています。
この記事では、塑性加工の基本的な仕組みから、加工方法や加工温度による分類、さらにはメリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
塑性加工とは
塑性加工とは、金属に大きな力を加えて変形させ、目的の形状を作り上げる加工方法です。
金属には「弾性」と「塑性」という二つの性質があります。弾性とは、力を加えると変形するものの、力を取り除くと元の形状に戻る性質のことです。一方、塑性とは、一定以上の力を加えることで変形し、力を取り除いても元に戻らなくなる性質を指します。
塑性加工では、この「塑性」の性質を活用しています。金属に降伏応力(降伏点)を超える力を加えて永久変形を起こし、所定の形状に成形するのがこの加工法の基本原理です。切削加工のように素材を削り取るのではなく、素材そのものを変形させるため、材料の無駄が少ないことが大きな特徴といえるでしょう。
塑性加工の加工方法の種類
塑性加工は、加工方法によってさまざまな種類に分けられます。ここでは、以下の代表的な6つの加工方法について解説します。
- 鍛造加工
- 圧延加工
- プレス加工
- 引抜き加工
- 押出し加工
- 転造加工
鍛造加工
鍛造加工は、金型やハンマーを使って金属を圧縮したり打ち付けたりすることで、成形と同時に組織を緻密化する加工方法です。金属内部の組織が緻密になるため、強度の高い製品を作ることができます。自動車のエンジン部品やクランクシャフトなど、高い強度が求められる部品の製造に多く用いられています。
圧延加工
圧延加工は、2本以上のロールの間に金属を通して圧力を加え、薄く引き伸ばしていく加工方法です。板材や棒材、線材などの素材を製造する際に広く活用されています。大量生産に適しており、鉄鋼業界では最も基本的な加工方法の一つです。
プレス加工
プレス加工は、金型を使用して板状の金属に圧力を加え、所定の形状に成形する加工方法です。せん断加工(打ち抜き)、曲げ加工、絞り加工など、多くの加工法を含みます。自動車のボディパネルや家電製品の筐体など、薄板金属の成形に幅広く使われています。
引抜き加工
引抜き加工は、金属をダイス(金型の穴)に通して引き抜くことで、断面積を小さくしながら所定の形状に成形する加工方法です。パイプや線材、棒材の製造に用いられ、表面が滑らかで寸法精度の高い製品を得ることができます。
押出し加工
押出し加工は、金属素材をコンテナに入れ、強い圧力をかけてダイスの穴から押し出すことで、一定の断面形状を持つ長尺製品を成形する加工方法です。アルミサッシや建築用フレーム材など、複雑な断面形状を持つ製品の製造に適しています。
転造加工
転造加工は、回転するダイスの間に金属素材を挟み、圧力を加えながら転がすことで所定の形状に成形する加工方法です。ねじやボルト、歯車などの製造に広く利用されています。切削加工と比較して材料のロスがほとんどなく、加工硬化により高い強度が得られることが特徴です。
塑性加工の加工温度の種類
塑性加工は、加工時の温度によっても分類されます。ここでは、塑性加工で代表的な以下の3種類の加工温度について解説します。
- 冷間加工
- 熱間加工
- 温間加工
冷間加工
冷間加工は、常温または再結晶温度以下の比較的低い温度で行う塑性加工です。加工精度が高く、表面仕上がりが良好であるため、寸法精度が求められる製品の加工に適しています。また、加工硬化によって材料の強度が向上する点も利点です。ただし、変形抵抗が大きいため、大きな力が必要となり、加工できる形状に制限がある場合もあります。
熱間加工
熱間加工は、金属を再結晶温度以上(鉄鋼であれば一般的に900℃〜1,200℃程度)に加熱した状態で行う塑性加工です。高温にすることで金属が軟らかくなり、変形抵抗が小さくなるため、大きな変形や複雑な形状の加工が可能になります。しかし、加熱による酸化スケールの発生や、冷却時の収縮によって寸法精度が低下しやすい点が課題です。
温間加工
温間加工は、冷間加工と熱間加工の中間の温度帯(一般的に数百℃程度)で行う塑性加工です。冷間加工よりも変形抵抗が小さく、熱間加工よりも寸法精度が良好であるため、両者の利点を兼ね備えた加工方法といえます。近年、省エネルギーや高精度化のニーズに対応するために、温間加工の需要が高まっています。
塑性加工のメリット・デメリット
塑性加工を採用する際には、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが大切です。
塑性加工の主な特徴とメリット
塑性加工には、以下のような優れた利点があります。
- 大量生産に向いている
- 材料の損失が少ない
- 材質の強度と靭性が向上する
まず、大量生産に適しているという点が挙げられます。金型を使用した塑性加工では、同じ形状の製品を短時間で繰り返し作ることが可能です。一度金型を製作すれば、加工時間が短いため生産効率が非常に高くなります。
次に、材料の損失が少ないことも大きなメリットです。素材を削り取って形状を作る切削加工に対して、塑性加工は素材を変形させて成形するため、材料の歩留まりが高くなります。
さらに、材質の強度と靭性が向上するという効果もあります。塑性加工では、金属内部の結晶組織が緻密化・方向性を持つことで、加工後の製品は元の素材よりも高い強度や靭性を獲得します。
塑性加工のデメリット
一方で、塑性加工には以下のようなデメリットも存在します。
- 設備のコストが大きい
- 加工精度は劣る
- 材料変質のリスクがある
設備のコストが大きいことが課題の一つです。プレス機や鍛造機などの大型設備に加え、製品ごとに専用の金型が必要となるため、初期投資が高額になります。そのため、少量生産の場合は費用対効果が見合わないケースもあるでしょう。
また、加工精度は切削加工に比べて劣る傾向がありますが、これは主に熱間加工の場合に見られます。冷間引抜きや冷間転造など精密な塑性加工も存在し、冷間加工では高精度が得られる場合もあります。塑性加工では、スプリングバック(変形後に元に戻ろうとする現象)や熱膨張・収縮などの影響により、高い寸法精度を確保することが難しい場合がある点には要注意です。精度が必要な箇所には、後工程で切削仕上げを追加することもあります。
さらに、材料変質のリスクがあることにも注意が必要です。特に熱間加工では、高温による酸化や脱炭、結晶粒の粗大化といった材料変質が発生する可能性があります。
まとめ
塑性加工は、金属の塑性という性質を利用して素材を変形させ、目的の形状に成形する加工方法です。鍛造加工や圧延加工、プレス加工、引抜き加工、押出し加工、転造加工など、さまざまな種類があり、加工温度によっても冷間加工、熱間加工、温間加工に分類されます。
大量生産に適しており、材料の無駄が少なく、製品の強度が向上するという優れたメリットがある一方で、設備コストの高さや加工精度の課題もあります。製品の用途や求められる品質に応じて、最適な加工方法を選択することが重要です。
金属技研では、お客様の製品に最適な加工方法のご提案を行っております。
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